名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)865号 判決 2000年6月23日
八六五号事件原告
下村こと金忠
被告
黒田雅明
一七七六号事件原告
富士火災海上保険株式会社
被告
下村こと金忠
一七九八号事件原告
日新火災海上保険株式会社
被告
黒田雅明
主文
一 被告黒田雅明は、原告金忠に対し金一六万八〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告金忠は、一七七六号事件原告富士火災海上保険株式会社に対し金一六万一八六六円及びこれに対する平成一〇年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告黒田雅明は、一七九八号事件原告日新火災海上保険株式会社に対し金四六万九四七二円及びこれに対する平成一一年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告金忠、一七七六号事件原告富士火災海上保険株式会社及び一七九八号事件原告日新火災海上保険株式会社のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は全事件を通じてこれを一〇分し、その六を原告金忠及び一七九八号事件原告日新火災海上保険株式会社の、その余を被告黒田雅明及び一七七六号事件原告富士火災海上保険株式会社の負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
(八六五号事件)
被告黒田雅明は、原告金忠に対し金三二八万五五九一円及びこれに対する平成一〇年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(一七七六号事件)
原告金忠は、一七七六号事件原告富士火災海上保険株式会社に対し金二六万九七七七円及びこれに対する平成一〇年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(一七九八号事件)
被告黒田雅明は、一七九八号事件原告日新火災海上保険株式会社に対し金一一七万三六八〇円及びこれに対する平成一一年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、左記一1の交通事故の発生を理由に、原告下村こと金(以下「原告下村」という。)が被告黒田に修理費内金五万円、代車費用二三八万一四〇〇円、格落ち損四五万四一九一円、弁護士費用四〇万円の合計三二八万五五九一円を、一七九八号事件原告日新火災海上保険株式会社(以下「原告日新火災」という。)が被告黒田に修理費内金一一七万三六八〇円を、原告富士火災海上保険株式会社(以下「原告富士火災」という。)が原告下村に修理費二六万九七七七円を、いずれも民法七〇九条により損害賠償を求める事案である。
一 前提事実(争いのない事実等)
1 交通事故
(一) 日時 平成一〇年一一月一八日午前一一時ころ
(二) 場所 名古屋市守山区幸心一丁目一〇一番地先道路上
(三) 原告車両 原告下村所有・運転の普通乗用自動車(甲四)
(四) 被告車両 訴外安浄寺所有・被告黒田運転の普通乗用自動車
(五) 態様 信号機のある交差点内の衝突
2 損害
(一) 原告車両の修理費 一二二万三六八〇円
(二) 被告車両の修理費 二六万九七七七円(乙二、三)
3 当事者
(一) 原告日新火災と原告下村は、本件事故以前に原告車両を被保険自動車とする自動車総合保険契約を締結していたため、平成一一年四月二三日、原告日新火災は右保険契約及び本件交通事故に基づき原告下村に対して修理費のうち一一七万三六八〇円を支払った(原告下村負担分五万円。弁論の全趣旨)。
(二) 原告富士火災と被告黒田は、本件事故以前に被告車両を被保険自動車、保険期間を平成一〇年六月一二日から平成一一年六月一二日とする自動車保険(車両保険)契約を締結していたため、平成一〇年一二月七日、原告富士火災は右保険契約及び本件交通事故に基づいて、訴外安浄寺に対して、被告車両の修理費として二六万九七七七円を支払った(乙一、二)。
二 争点
1 事故態様、原告下村及び被告黒田の過失
(一) 原告下村及び原告日新火災
本件事故は、被告黒田の前方不注視、指定通行区分違反及び速度違反(制限速度時速六〇キロメートルのところ時速約九〇キロメートル)の過失に基づくものである。
原告下村には過失はない。
(二) 被告黒田及び原告富士火災
本件事故当時、被告黒田の進行方向は第二、第三車線が本件交差点手前も前方も渋滞していたところ、原告下村はこの渋滞車両の合間をぬって対向車の動静を確認することなく右折を開始して本件交差点に進入し、本件交差点内で停止した。すみやかに右折を完了することができないのであれば右折を開始してはならないのであるから、本件事故は基本的に原告下村の過失に基づくものである。
原告下村及び原告日新火災が主張する被告黒田の前方不注視及び速度違反は否認する。
2 原告下村のその余の損害
(一) 原告下村
代車費用(請求額二三八万一四〇〇円)
一日当たり二万七〇〇〇円の八四日間分とこれに対する消費税
原告車両の部品入手に日数を要した。
格落損(請求額四五万四一九一円)
財団法人日本自動車査定協会発行の事故減価数値表記載の計算式に基づく。
弁護士費用(請求額四〇万円)
(二) 被告黒田
代車費用、格落損、弁護士費用をいずれも否認
第三争点に対する判断
(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)
一 事故態様、原告下村及び被告黒田の過失
1 甲第六号証、乙第六号証、原告下村(第一回、第二回)及び陂告黒田各本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
(一) 本件交差点は南北道路と東西道路がほぼ直角に交差する信号機により交通整理がされている交差点である。南行車線の本件交差点手前(北側)は片側三車線であるものの本件交差点付近で歩道側に左折専用東線(路線バスを除く)が設けられて四車線となっている。南行車線の本件交差点先(南側)は、本件交差点から約一五〇メートル先で二車線に減少している(乙六<2>)。本件事故当時、南行車線の直進車線はすべて渋滞しており車線上の車はほぼ停止状態であったが、左折専用車線上は空いている状態だった。
(二) 被告黒田は、当初、南北道路の南行直進車線を走行していたが、先を急ぐ用事があったことから、本件交差点手前で設けられていた左折専用車線に入り、青信号中に本件交差点を通過しようと加速した。しかし、加速した途端に前方に原告車両を発見し、ブレーキをかけたものの間に合わずに被告車両に衝突した。
(三) 原告下村は、南北道路の北行車線を走行し、前方信号が青信号であったために本件交差点で右折をしようとしたところ、南行車線が交差点内で渋滞していたために右折することができず、交差点の中で一旦停止した。その後、交差点内の南行車線の車が移動して車間を空けたため、ゆっくりと右折を再開し、対向の左折専用車線から向かってくる車がないことを確認して進行した。しかし、前方交差点出口の横断歩道上に歩行者があったために対向の左折専用車線上で停車していたところ、左方から来た被告車両が左側面に衝突した。
(四) 原告下村は、本件事故の翌日に本件事故現場を被告側である原告富士火災のアジャスターや被告黒田と共に見に行った際に、そのアジャスターが、被告車両の進行道路にスリップ痕が約二八メートルあったことからして被告黒田の速度は時速約九〇キロメートルくらいは出ていただろうと話したのを聞いたと述べ、被告黒田もこのアジャスターから同様の話を聞いたと述べる。しかし、このスリップ痕の正確な状況は不明であって、翌日に当事者同士で確認したに過ぎない以上、真実被告車両のスリップ痕であるか否か確定することができない。また、実際に二八メートルのスリップ痕があったとしても対応する制動初速度は時速九〇キロメートルには達しないものであり、前記認定のとおり被告黒田は交差点手前で左折専用車線に車線変更し、それから加速したという走行状況に照らしても被告車両が制限時速六〇キロメートルを著しく超過していたとまでは認めることができない。
2 以上の事実及び交差点内の進行は直進車優先が原則であることを前提とすると、右折を開始したものの交差点内で停止していた原告下村に過失があることは明らかである。しかし、被告黒田にも左折専用車線を直進した点で過失があり、また、加速した途端に既に前方にいた原告車両に気づいたものであり車線変更後に原告車両が出てくるのを見たというわけではない状況に照らし明らかな前方不注視があったと認められる。そして、前方不注視のまま車線変更後直ちに加速をしたことも考え併せるとその過失は少なくないとは言えず、これらを総合考慮すると、双方の過失割合は原告下村六〇に対して被告黒田が四〇の割合とみるのが相当である。
二 原告下村のその余の損害
1 代車費用(請求額二三八万一四〇〇円) 三二万円
甲第二、第七号証によれば、原告下村は、本件事故後、原告車両(ポルシェ911カレラクーペ)の代車としてクラウンロイヤルSを一日二万七〇〇〇円の割合で平成一〇年一一月二〇日から平成一一年二月一二日まで八四日間代車として使用し、代車費用二三八万一七〇〇円の支払いをしていることが認められる。
しかし、原告下村は建築物の金型の設計をしており、原告車両を図面の受け渡しや接待のために使用していたために代車が必要だったと述べるが、原告下村の仕事の内容に照らすと原告車両での接待が不可欠であったとは認められず、また、図面の受け渡しのために使用するのであれば高級車である必要はまったくないから、原告下村の使用した代車の単価は高額に過ぎ、乙第七号証に照らし一日当たり八〇〇〇円の限度で認めるのが相当である。
また、原告下村は八四日間という長期間代車を使用した理由として、原告車両の部品が調達できなかったと主張する。しかし、甲第六号証及び第八号証の一、二によっても原告車両の部品調達が遅れた事実は認められるものの、その遅れた理由、部品調達に要した日数はいずれも不明であり、むしろ、甲第五号証によれば実際に修理を行った会社による当初の見積時には平成一〇年一二月二五日完成予定となっていたことに照らすと、右の全期間の代車使用料を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのは相当ではなく、四〇日の範囲で認めるのが相当である。
したがって、代車費用として三二万円の範囲で本件事故と相当因果関係に立つ損害として認める。
2 格落ち損(請求額四五万四一九一円) 零円
甲第五号証及び乙第五号証により認められる原告車両の状況に照らし、原告車両に修理後も回復できない損傷があるとは認められないから、原告車両に本件事故による格落ち損があるとは認められない。
3 過失相殺
以上によれば、原告下村の損害は、修理費のうち五万円と前記代車費用三二万円の合計三七万円であるところ、前記認定のとおり原告下村には本件事故につき六割の過失が認められるからこれを控除すると、被告黒田が賠償すべき損害は一四万八〇〇〇円となる。
4 弁護士費用(請求額四〇万円) 二万円
右に認定した被告黒田が賠償すべき原告下村の損害額に照らし、弁護士費用として二万円を本件事故と相当因果関係に立つ損害として認める。
四 結論
以上によれば、原告下村の被告黒田に対する請求は一六万八〇〇〇円及びこれに対する本件事故当日である平成一〇年一一月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告日新火災の被告黒田に対する請求は原告日新火災が原告下村に支払った修理費内金一一七万三六八〇円から原告下村の負担に帰すべき部分を除いた四割に相当する四六万九四七二円及びこれに対する原告日新火災が原告下村に修理費の内金を支払った日後である平成一一年四月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告富士火災の原告下村に対する請求は原告富士火災が訴外安浄寺に支払った修理費二六万九七七七円から被告黒田の過失割合を除いた六割に相当する一六万一八六六円及びこれに対する原告富士火災が訴外安浄寺に修理費を支払った日の翌日である平成一〇年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 堀内照美)